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「午後の日」 [本・映画・芸術 etc.]

生誕100年 岡本太郎展 @竹橋 東京国立近代美術館

友人の結婚式に出席するため、短い時間だったが東京に滞在した。
せっかくだから幾つか美術館を回る計画を立てていたのだが、
この「地震」や「計画停電」の影響で休館が多く、
結局一箇所しか訪れることができなかった。
しかし、最も重要な、内容の濃い経験だった。
鮮烈な赤、青、そして黒。
常に、我々の日常的な価値観との対決を目指した岡本太郎の作品は、
観る者を容易には寄せ付けない。
具象と抽象の緊張感から生まれるある種の違和感が、
作品となったとき、それはおどろおどろしい表現のなかに、
怠惰な日常への警鐘が聞こえてくる。

昔、“しあわせなら手を叩こう”という歌がはやったことがある。
若い連中がよくその歌を合唱して、“手を叩こう”ポンポンなんて、
にこにこやっているのを見ると猛烈に腹が立って、
ケトバシてやりたくなったもんだ。
ニブイ人間だけが「しあわせ」なんだ。

(岡本太郎「強く生きる言葉」イーストプレス)

そうした激烈な志向、「生きる」ことへの強い意志によって、
好むと好まざるとに関わらず、我々は蹴飛ばされ、覚醒へと導かれる。
しかし、だから、そのギャップによるからなのか、
その中にあって、特に「ほっとする」作品があった。
「午後の日」と名付けられた陶器の造形作品だ。
多くの者がこの作品を気に入っているに違いない。
岡本の墓標にもなっているこの作品にはいくつかのバージョンがあり、
また作品名の違う類似作品も存在するようだが、
今回見た色分けされた陶器によるこの作品が断然いいにきまっている。
普段は川崎市岡本太郎美術館が所蔵しているようだ。
「絵葉書」にあるように庭園の茂みのなかでひょっこりと顔をだしているのだとしたら、
なおさらいいにきまっている。
日常の中にある、あたたかい安心感は、実のところ、その逆を経験しなければ、
なかなか気付かれないのかもしれない。
芸術は、非日常を我々に突きつけ、逆に日常の幸福を気付かせてくれるのかもしれない。
「午後の日」は、岡本がメディアや自らの表現のなかで演じている世界観だけが、
彼の世界そのものでは決して無いのではないか、と感させてくれる。
おどろおどろしく、暴力的にえみえる絵画群は、
むしろ、あたたかくさやしい、生の充実を教えようとしているのではないか。

それにしても「午後の日」のやさしいほほえみは、
一体どこへ向けられているのだろう。
きっとなにか大切なものに向けられているのだろうと思う。
そして彼はきっと、「幸福」なのだろうと思う。
人々に「午後の日」と同じまなざしが戻ってくるように、
自分もまた、同じまなざしを育てることができたら幸福だろうと感じた。


先日、「倫理」の授業と「現代社会」の授業で、
それぞれフィリピンでの医療ボランティアに参加した生徒たちに授業を行ってもらった。
テーマは「幸福」について。これはいずれも地震前のことだ。
その様子については西高の公式ウェブサイトでE先生にご紹介いただいた
授業後のレポートとして、生徒には「幸福」にとって必要なものはなにか、
ということを書いてもらった。
良く読むと、どきりとすることが沢山書いてあった。
「お金ではない」とか、「普通に暮らせること」とか、その程度のことでは終わらない、
もっと純粋で、こころやさしい意見ばかりだった。
特に、他者とのかかわり、「誰かのために」ということを重視する意見が多かった。
僕は、「ごく普通の毎日」や「自分の趣味をもてること」とかが重要だと思っていたから、
「誰かのため」に何か出来ることが幸せ、という生徒の言葉に、
ああ確かにそうだ、誰かのために日常を生きられたら、それは幸せなことだ、と思った。
(その後、地震が起こり、気が付くと生徒たちは行動していた。)
「誰かのためになりたい」という高校生たちの純粋なまなざしが、
震災で傷ついた多くの人々の心に、ゆっくりと届いていってくれるといい。


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書店も [本・映画・芸術 etc.]

三年生だけテスト期間になりました。
これで三年間の最後。
なんだか寂しい感じもしますが、
毎年訪れる大事な時期。春を想う時期です。

テスト監督で三年生の教室に立ち寄ったら、
きっちり使われきった現代文の演習ノートが落ちていました。
休み時間に拾ってパラパラめくると、
なかなかためになる「評論文」が並べられている。
高校生用で使う教科書というのは勉強になる部分が多く、
専門家が良く吟味して、バランスの良い、
しかもある程度時代にマッチした文章をピックアップしてくれています。
それで、ざっと読んで、やっぱり「新書」はいいな。と思いました。
そこいらの教員の根拠も思想も論理もない与太話より、
新書を二冊でも三冊でも読んだほうが、
ずっとためになる。(人生に直接役立つかどうかはわかりません)
というわけで、松岡正剛の『白川静』を買おうと、
学校を出てから戸田書店に立ち寄ったのものの、在庫がない。
とはいえ、やっぱり本が並んでいるというところを見るだけで楽しくなってしまい、
ついつい手が出て4冊も買ってしまいました。
本当に読めるのか怪しいものですが、
見ているとあれもこれも読んでみたくなるもの。

で、レジに立ち寄りふと脇に目をやると、
なんと予想だにしなかった張り紙が。
「諸般の事情により、閉店することになりました」
まさかの、2月いっぱいで閉店。
開店してまだまもなく明るく綺麗だし、
上田のなかではかなり品揃えもいいし、
お洒落な感じで『現代思想』バックナンバーフェアとかやっちゃうくらいだし、
ちょうど帰り道の途中だし、
もう1週間に3回くらいのペースで訪れていただけに、とてもショックです。
MINI freak」や「MINI plus」を
一体この上田の何処で買い求めればいいのでしょう。
「移転」→「新規リニューアルオープン」の間違いであってほしい。
お客さんは上田にしてはかなり入っていたのではないかと思いますが、
やはり書店業というのは全体的に厳しいのでしょうか。
ますますamazonに頼らざるを得なくなるのも寂しいですね。
手にとって手触りを確かめるのが楽しい人間としては、
また新たに上田にも大きな書店の開かれるのを期待します。
古くからの書店さんが、頑張ってくれればいいのですが。
でも、テナント料を考えれば、
戸田書店の「閉店」は、広く品をそろえるという方向ではもうやっていけない、
ということのあらわれなのかもしれません。
古くからの書店さんが地域密着で郷土の本に力を入れたり、
岩波だけは網羅したり、という感じでやっているのは、
生き残ってゆくための戦略なのでしょう。
そういうこだわりを持たずに書店経営を維持しようとすると、
わけのわからないトンでも本を「ベストセラー」だから「おすすめ」扱いで並べるような、
そんな店になってしまうのでしょう。
まあ、これだけ無料情報が溢れている時代、書籍は割高な感じが確かにします。
やはり活字文化がおおきく組みかえられていく、そういう只中にいるんだ、
と思い至るのでした。


今日買った「新書」


「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

「空気」と「世間」 (講談社現代新書)

  • 作者: 鴻上尚史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: 新書



疑似科学入門 (岩波新書)

疑似科学入門 (岩波新書)

  • 作者: 池内 了
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 新書



フィレンツェ―初期ルネサンス美術の運命 (中公新書 (118))

フィレンツェ―初期ルネサンス美術の運命 (中公新書 (118))

  • 作者: 高階 秀爾
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 1966/11
  • メディア: 新書



いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

  • 作者: 内藤 朝雄
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/03/19
  • メディア: 新書



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 [本・映画・芸術 etc.]

執筆と編集の仕事をいくつか抱えて(抱え込んで)いる。
今、とっても忙しいような気がして、気ばかりが焦る。
編集といえば松岡正剛。
氏の著作をいくつか読んだが、無論、実際の仕事にはあまり役立たない。
いや、そういうとセイゴオ先生に叱られる。
やっぱり、無論、大いに役立っている。

松岡正剛の「千夜千冊」はすご過ぎて(キャパシティを超越しすぎていて)読む気にはなれないが、どこか本棚に並んでいるところを一度でも見てみたい。

とりあえず今度は氏の『白川静』を読みたい。
そんな時間ない、といいたいときに限って、
読みたくなる。

あ、また別の原稿もう一つ頼まれてたの思い出した。
どうしよう。ネタがない。
書けないことはいっぱいあるけれど。

携帯電話が故障した。
全く充電できなくなり、電池の残量が切れると、
当然ながら全く電源が入らなくなった。
携帯なしの生活もいいもんだ、
なんて言ってられなかった。
あわててお店へ行き、「修理」となった。
1週間、「代車」ならぬ「代携帯」。
そういえば、一昨日から「代車」でもある。
こちらは車検であって故障ではないが、
偶然にも「代」が重なった。
今は「かりそめ」の日々だということだろうか。






白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

  • 作者: 松岡 正剛
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2008/11/15
  • メディア: 新書



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そのように、私は、本を読んだ。 [本・映画・芸術 etc.]

<覚書>
 私は、建築とは何か、ということに関心を持っていた。しかし、誰かに、「建築とは何でしょう」と尋ねても、誰も答えてはくれなかった。「そんなことは考えずに、仕事をしろ。いずれ、自ずとわかるようになる」といった答えが返ってきた。「それは、私の質問に対する、良い答えですね」と私は言った。しかし、私は、もっと知りたかった。見つけたかったのだ。だから、本を読んだ。物事をわかるために、自身を明確にするために、読んだ。何が起きているのか、我々の時代とは一体何なのか。そうしなければ、理性的な何かを実践することなどできない、と私は考えていた。そのように、私は、本を読んだ。私は、自らお金を払って、本を買った。ありとあらゆる分野の本を読んだ。
(Mies van der Rohe)

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年を越えろ [本・映画・芸術 etc.]

「ルイス・バラガン邸をたずねる」展 @渋谷ワタリウム美術館
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渋谷のビル街の一角に、突如としてメキシコの建築家ルイス・バラガン邸があらわれた。
バラガン邸そのものがそのまま再現されたわけではないが、限られたスペースの中で、
個々の作品ではなくバラガンという空間を再構成するというこの企画自体なかなか面白い。
部屋に溶けこむアルバースの「黄色い正方形へのオマージュ」や、
室内に庭を構成するための吹き抜け、
あたたかく重厚な無垢のキャビネット群が、
ああ、ここにゆっくりしていきたいな、という気分にさせる。
ソファに腰をかけてゆっくりくつろぐことが許されなかったのが残念だが、
入場料もリーズナブルだし、「ちょっとバラガンさん家まで」という気分で訪れることのできる、良い展覧会だった。
しかし、自分で建てるなら、やっぱりああいう家がいいな。夢のまた夢だけれど。
写真などでメキシコの本物のバラカン邸をみることができるが、
庭の緑と、壁のあたたかくくすんだ白、ところどころに黄色や青が入れられ、
陽気な中南米気分と、洗練された北欧のようなテイストが溶け合っていた。
<覚書>
 私は「感情的建築」というものを信じています。人間にとって、建築がその美しさによって心を動かすものであるということが非常に大事なのです。
(Emilio Ambaz "The Architecture of Luis Barragan")
 ノスタルジーとは、個人の過去にたいする詩的な認識のことです。芸術家にとっては、自分自身の過去は、想像力の源となります。建築家も、自らのノスタルジーの啓示に、耳を澄ませてみなければなりません。
(Luis Barragan:Escritos y Conversaciones)


医学と芸術展@六本木森美術館
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ポップ系の宣伝だったため、あまり期待していなかったが、
量も質も、申し分のない良い展覧会だった。
ポップアート中心なのかと勝手に思い込んでいたが、
ダヴィンチの解剖図から始まって、
現代の遺伝子操作や細胞培養までをあつかった、
なかなか盛りだくさんで良い疲れを感じる。
「医学」は、考えてみれば、それは「生」とか「死」を扱うもの。
芸術と無関係でないはずがない。
「医学」という切り口を得たことで、生と死をめぐる芸術の、
古く重い、もっとも中心的なテーマを「新しくて軽やかなもの」と感じることができた。
その意味ではポップ系マーケティングで正解だったのかも知れない。
英国ウェルカム財団の協力ということで、なかなか胡散臭い財団のようにも聞こえるが、
大変なコレクションを所蔵していたものである。
どきりとする展示ばかりだった。
これはおすすめ。
すこし頭の中で整理して、生徒にお話したいことをためておこう。


FUZZSUSPENDERS年末イベント@下北沢mona records
002.jpg
突然お邪魔した。
一度は行ってみたいと思っていたのだが、こんな形で実現。
会場には子ども多数で「LIVE」らしからぬ雰囲気、
「アットホーム」とはこのことだろうか。
なんだか何年ぶりとも思い出せないくらい久しぶりに聞いたsuspendersの生演奏。
始めから最後まで、ずっとわくわくしてひとり笑いが止まらなかった。
少しだけこなれたMCも、基本の雰囲気が全然変わっていない。
技術はすごく高くなっていて、でも音楽は変わっていなかった。
重厚さを増しながらも全てをやさしくあたたたくつつんでしまう、
お店を含めてのこの空気感が心地よい。
CDを買おう。そしていつもどおり、歌詞をよく聴きながら。
遠いけれどまた行きたい。
音楽もまた、人を近づけてくれる。


さて、年を越そう。
長野県北部は大雪警報が。なんだか年末らしくなってきた。
2009年は、変な年だった。
001.jpg
2010年もたぶん、変な年になるはず。
どんどん変になっていこう!






タグ:音楽 美術
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『の時間』 [本・映画・芸術 etc.]

たまたまTVをつけたら、爆笑問題のニッポンの教養。
今日は本川達雄、とっても面白かった。
その昔その昔『ゾウの時間ネズミの時間』を読んで、とにかく面白かった記憶があり、
それでももう古い本なのであまり生徒に勧めることもなかったが、
しゃべる本川達雄本人を初めてTVで見て、
こんなに変な人だったのか! と嬉しくなった。
それで、本棚をごそごそ探して見つけた中公新書1087。
紐解いてみれば、さまざまな数式の付録とともに、
「付録5」などともっともらしく、『一生のうた』の歌詞と楽譜が。

 ゾウさんも
 ネコも ネズミも 心臓は
 ドッキン ドッキン ドッキンと
 二〇億回 打って止まる

本川氏作詞作曲なのだろう。
東工大でこんなことやってるんだから、
というか、東工大ってやっぱりすごい大学だな、
と思う。

『ゾウの時間…』はもう初版から18年。
今の生徒たちが生まれたころに売れた本だが、
再版をかさね、未だに新品が売れている。
BOOK OFFにいけば100円コーナーにずらりと並ぶし、
場合によっては1円で売っているほど世に溢れた本だが、
歌う本川氏をみて、また読みたくなった。

パラパラとめくると、昔の自分は読み込めてなかったんだ、
ということにも気付いた。
今となっては学術的な価値があるのかよくわからないのだが、
時が経っても、本の楽しみを教えてくれる、
自分にとって最も大切な本のなかのひとつに違いない。


ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

  • 作者: 本川 達雄
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1992/08
  • メディア: 新書



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美しい椅子 [本・映画・芸術 etc.]

えい出版の『美しい椅子』シリーズを再び読み出した。
再び、なんて言って、まだ2巻の途中なのだけど。
昨年秋に信濃美術館で催された「美しい木の椅子展」は圧巻だった。
ウェグナーやヤコブセンが普通になにげなく、
工業製品として展示されていた。
("The Chair"に座れなかったのが残念)
あのときはまだ良く知らないことが多くて、
また時間がなかったこともあって、
わりとあっさり通り過ぎていったのだけど、
もし、もう一度あの展覧会を訪れることができたら、
今度は半日以上かかるだろうと思う。

1巻は北欧のみだったが、
2巻は日本のデザイナーに焦点をしぼったもの。
柳宗理や渡辺力の作品などは、色々なところで目にするが、
他のデザイナーのものとなると、全くしらない。
写真で見る限り、初めは「ただの椅子じゃないか」と思ってしまう。
ところが、読み進めていくうちに、同じ写真が神々しく見えてくるから不思議だ。

学生の頃は「ミッドセンチュリー」がちょっとしたブームで、
椅子といえば絶対的にイームズだった。
たまたまイームズのハーマンミラー製のラウンジチェアを置いている店に入ったことがあって、
値段を見ずに腰掛けてみたときは感動した。
ずっとそこに居たかった。(帰り際に値段をみてぞっとすることになる)
イームズも雑誌の宣伝に乗せられた頭でっかちな流行りものみたいな感じだったのだけれど、
そのときは、いいものは理屈なしにいいな、と思った。
けれど、今はほんのちょっと微妙に感覚が違ってきている。

「よく知る」ことで、
見方が変わって、やっとそこで「ホンモノ」の価値がわかる、
ということも、確かにあるのである。
一見、なんの変哲もなく地味なものが、
知れば知るほど面白く見えてくる、
噛めば噛むほど味が出る、
そういうもののほうが、ほんとうは「ホンモノ」なのかもしれない、
とも思ってみたりする。

昔、いつごろだったか、倉敷に行ったときに、美術館をずっと回ったのだけど、
沢山の作品のなかで、最も心打たれたのは、
グレコの「受胎告知」だった。
何の知識もなく、「受胎告知」というのがどういう場面なのかさえ知らなかったのに、
その作品の前では動けなかった。
今、その作品の背景を知れば知るほど、
個人的ではあるけれど、興味が薄れてしまう。
なぜかわからない。
歴史に残る作品であることには変わりないはずなのだけれど、
作品そのものの不変の力に関わりなく、
たぶんこちらが変わってしまうのだ。

「ホンモノ」はいたるところに有るのかもしれない。
というより、「ホンモノ」はこちら側にあるのか。
幼いころ、カキフライがあまり好きになれなかったのに、
今は大好物だというのと同じなんだろうか。(否、似ているが違う)
知ることで、世界が変わるというのはこういうことなのか。
今はとにかく、色々なことを知って、
いろいろなものをゆっくり味わいたいと思うようになっている。
それだけ、直感を頼りに出来ないほど感受性が鈍っているのだろうか。

今は『美しい椅子』のシリーズをどんどん読み進めたい。
ここでは工房の技術力をめぐる想像力も刺激される。
技術と美術、どっちもartっていうわけですので。
職人っていうものへの憧れもありますね。


美しい椅子―北欧4人の名匠のデザイン (エイ文庫)

美しい椅子―北欧4人の名匠のデザイン (エイ文庫)

  • 作者: 島崎 信
  • 出版社/メーカー: エイ出版社
  • 発売日: 2003/11
  • メディア: 文庫



美しい椅子〈2〉にっぽんオリジナルのデザイン力 (エイ文庫)

美しい椅子〈2〉にっぽんオリジナルのデザイン力 (エイ文庫)

  • 作者: 島崎 信
  • 出版社/メーカー: エイ出版社
  • 発売日: 2004/03
  • メディア: 文庫



美しい椅子〈3〉世界の木製名作椅子 (エイ文庫)

美しい椅子〈3〉世界の木製名作椅子 (エイ文庫)

  • 作者: 島崎 信
  • 出版社/メーカー: エイ出版社
  • 発売日: 2004/07
  • メディア: 文庫



美しい椅子〈5〉世界の合成素材製名作椅子 (エイ文庫)

美しい椅子〈5〉世界の合成素材製名作椅子 (エイ文庫)

  • 作者: 島崎 信
  • 出版社/メーカー: エイ出版社
  • 発売日: 2005/05
  • メディア: 文庫



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こわれやすい「たまご」のなかで [本・映画・芸術 etc.]



ぼくが世の中に学んだこと (岩波現代文庫)

ぼくが世の中に学んだこと (岩波現代文庫)

  • 作者: 鎌田 慧
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/05/16
  • メディア: 文庫


『ドキュメント屠場』に続いて鎌田氏の著作を読んでいる。
「岩波現代文庫」に入って、今最も重要な著作のなかのひとつだと思う。
彼自身がそこへ分け入って実際に働いてきた様々な労働現場
(高卒後上京して入った印刷会社や八幡製鉄所の労働下宿、トヨタ季節工…)
での、人間の生き方というか、労働と人間性のありかたというか、
基本的な視野を持たせてくれるいい本だと思う。
インテリでは、なかなか想像がつかない世界ですよね。
頭ではわかっていても。
どこぞの政治屋さんも、きっとそういう労働者の世界を、
ぜんぜん想像できないんだろうと思う。

どんな人にも人生がある。
得意分野もあれば不得意分野も平等にある。
良心も公平に分配されている。(デカルト)
しかし、「幸福」はどのようにしたら平等にあるだろう。
世界には紛争地域もある。
食料不足もある。
いま、豊かな日本で、今日、明日の宿がないということもある。
当然のことながら、今も世界には矛盾が渦巻いている。

<覚書>
Why? Because each of us is an egg, a unique soul enclosed in a fragile egg. Each of us is confronting a high wall. The high wall is the system" which forces us to do the things we would not ordinarily see fit to do as individuals. (H.Murakami)

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西原『「カネ」の話』 [本・映画・芸術 etc.]


この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ) (よりみちパン!セ)

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ) (よりみちパン!セ)

  • 作者: 西原理恵子
  • 出版社/メーカー: 理論社
  • 発売日: 2008/12/11
  • メディア: 単行本


とてもいい本だ。生徒に読ませたい本として紹介できる。
西原理恵子は、人の苦しみや悲しみや寂しさを、たぶんよく知っていて、
様々な境遇の人生に対して共感的に語ることのできる人だと思う。
ややもすれば馬鹿真面目になりがちな今の高校生にとっては、
視野を広げることのできるバイブルになる。
一方で、「キャリア教育」なんていう、
わけのわからない、いいわけじみた、アリバイ作りみたいな、
職業教育が大事だなんていっている学校にとっても、
ざっくりしてばっさりした西原の職業観(金稼ぎ観)は、
そうした限定的な職業―キャリア観の根本へ降りてゆく、
ある種の強さを持っている。

ただ、一方で、違和感がないわけでもない。
(そこがたぶん、大事なところで、それも含めてお勧め本である)
困っているのは、もっと「普通」の人たちの「普通」の人生じゃないのか?
「普通」の幸せがほしくて、「普通」にやっているのに、
家を失ったり、家族を失ったりする。
確かに、とても甘い考えで漠然と職業を考えている「若者」にとっては刺激になるだろう。
しかし、ほんとは「普通」ってのがとても大事じゃないのだろうか。
結局、西原って、才能あんだよね、
とイヤミを言いたくなってしまう部分もあることは否定できない。
(そんな自分が情けないけれど)

で、その「普通」ってのが問題なんだけどね。
結局何が「普通」なのか、あるいは「普通」の人生なんてあるのか。
誰からも省みられないような、「普通」の人生のなかに、
さまざまなドラマがあることは確かだ。
というか、ドラマにしようと思えば、いくらでもドラマにはできる。
でもそれって、なんだか劇場社会で、
結局面白いドラマになればいいみたいな。

劇場型競争社会。自分、苦労してまっせー、的な売り込み社会。
そうじゃないと食って行けない社会なのだ、
というのが西原の本の意味するところなのかも知れない。

歳をとったのか、できれば僕は普通に一生懸命生きたいですね。

そういう意味では、
やや退屈でも、
もっと現実的な仕事の場面を淡々と紹介する事例集が
僕は好きなのかも知れない。
そういう意味では、日経文庫の『働くといいうこと』はいいかもしれない。
とてもタイクツな本。
「働くひと」ひとりひとりの人生や思想というところに、ちっとも降りてゆかない。
せいぜいが、みんなそれぞれ課題もってがんばってるぜ、
という当然のことを紹介したにすぎない。
でもそういう決してドラマチックでないタイクツのなかに、
確かにそれぞれの幸せがあるはずだ。
そういう普通の幸福を馬鹿にしちゃいけない。
自分のドラマについて、話べたもいれば、才能のない人間もいる。
ドラマという「ネタ」を持っていない人間もいる。
でも、みんな幸福のはずだ。そういう幸せは大事だ。

働くということ (日経ビジネス人文庫)

働くということ (日経ビジネス人文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 2006/09
  • メディア: 文庫


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今年の卒論 [本・映画・芸術 etc.]

今年も政治経済の授業で卒論の季節となりました。
なんだかタイミングが微妙にずれているなぁ、と思っていたら、
そうです、3学期制になったので、いままでと違うんですね。
ちょっと日程的にきつい所もあるかもしれません。
来年度用シラバスは少し改善の余地がありそうです。

生徒たちは今年も様々なテーマを探してくれています。
「化粧」についての探求をしてくれる女子生徒が二名いて、
特に期待しています。(もちろんまだまだこれから絞ってゆきます)
また、「エステ」について研究したいという生徒も。
雑誌の特集紙面みたいにさえならなければ、すなわち、
化粧屋さんの宣伝やエステ屋さんの宣伝にならないように、
常に根本的な問いを持ち続けていれば、
なかなか面白いアイデアが浮かんできそうです。
いままで、一番失敗しているテーマは
「血液型と性格」関連ですね。
どうしても血液型占い本の宣伝の域を出られません。
何度も何度も準備段階で批判精神を確認し、そのための手法を確認しても、
どうしても「コマーシャル」に絡めとられてしまう。
紙面構成のセンスもそれなりにみんな持っていて、
ファッション雑誌の編集者だったら、きっといい仕事しますよ。

僕もまた少しずつテーマを持って本を読み始めています。
テーマはずばり「食」。(ぜんぜん「ずばり」ではないけれど)
もっと絞り込もうと思っていたのですが、今どんどん広がっています。
というか絞り込むための読書をいまはしている、というところです。
(まだ観ていませんが)『いのちの食べ方』(原題:Our Daily Bread)というDVDを手に入れたのをきっかけに、
さまざまな興味が結びつき始めました。
線的に並ばないので、まだまだ整理がつかない。
・食と命
 →食文化
 →生命哲学(狂牛病を中心に)
 →と殺、スーパーマーケット
   ⇒流通は?
・食の安全
 →狂牛病
 →トレーサビリティ
 →食品添加物
 →「有機」
 →食品偽装
  ⇒流通、スーパーマーケット
・食育
 →食と命
 →地産池消費
  ⇒流通
・グローバル経済と食
 →食料自給率
 →地産池消
 →フェアトレード(コーヒー・バナナ・カカオ・エビ)
 →安全性
ほら、ぜんぜん整理できてない。
どういうふうに整理したらいいですかね。誰か教えてください。




ドキュメント 屠場 (岩波新書)

ドキュメント 屠場 (岩波新書)

  • 作者: 鎌田 慧
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1998/06
  • メディア: 新書



いのちの食べかた [DVD]

いのちの食べかた [DVD]

  • 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
  • メディア: DVD



ついでに<覚書>
 「たとえばアフリカのマリでは、南部の綿栽培と北部の牛飼育が2大産業だったが、『市場開放』で大きな打撃を受けた。米国は自国の綿栽培業者にマリの国家財政を上回る補助を与えて、EU(欧州連合)は牛1頭ごとに年500ユーロ(約6万円)の財政支援をしている。マリ政府は『援助や助言はいらない。ただ、われわれに求めた市場開放を、欧米にもあてはめてほしい』と訴えている。自由市場というのは幻想で、これまでも各国は、自国優先の原則で行動してきた」(スラヴォイ・ジジェク)
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